彼は誰のために美しくなるのだろう。
会うたびに思う。彼は、誰かに恋をしている。その姿を見たくなくて僕は、彼にあまり会いに行かない。草壁と、赤ん坊、それと僕の師を自称する男に、時折聞く。それで、満足する。満足させようとする。
会ってしまえば、欲を抑えるのが、辛いから。
彼は、僕が恐ろしいだろう。ひどいことしかしてこなかった。殴ったし、何度も殺そうとした。恋を知らなかったから、どうして良いかなど、わからなかった。子供の癇癪と同じだ。思い通りにならないから、喚いて。
仮初でも優しい、あのいけ好かない男の方が、きっと、まだいいのだろう。あの男といる時、彼は優しく笑っている。赤ん坊といる時、彼は無邪気な顔をする。
僕といる時、僕は、彼がどんな顔をしているか、知らない。怖いから、見ない。こんな感情を持つのは、きっと、彼のことだけだ。
彼が、花のように笑うのを、遠くで見た。僕のいないところだから見せるんだろう。恥じらうように、きっと、誰かを想って見せただろうその笑顔は、何よりも美しかった。
言い寄ってくる女が、いないわけじゃなかった。一夜だけでいいからと、言う女もいた。誰一人、指ひとつ触れることはなかった。
彼に似た女も、いた。けれど、彼じゃなきゃ意味がなかった。
今夜は、君のことを思い出す。
きっと、君に会ってしまうからだろう。
沢田綱吉。僕の愛している男。
その後→
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