「ゆ、き?」
久々だなあ、と思う。外の空気を吸うのも、雪を見るのも。
誰にも言わず、唐突に屋敷を抜け出してきた。なんとなく息苦しくて。目の前がちかちかして。やりかけの仕事を放り投げ、スーツを脱ぎ捨てジーンズにセーターとコートを着て。
だれもドン・ボンゴレだなんて思わない。年若いただの東洋人の青年。
クリスマスは既に過ぎて、年明けまであと僅か。中途半端な時期で、けれど人は多い。人の波に飲まれて、ゆっくりと移動していく。突き刺さるような寒さが体を包む。
リボーンはもう気づいただろう。獄寺君はどうかな。大騒ぎしてるかも。山本はにこにこ笑いながら怒ってるかもしれない。地味に怖いんだよなあ。
今まで脱走したことなんてなかった。正式に襲名してから、二年。成人式には出たほうがいいのかな、出られないかな。みんなどうしてるだろう。京子ちゃんは大学生だっけ。ハルには悪いことしたかなあ。こんな世界につれてきちゃって。
は、と息を吐く。冷えて白くなって、やがて霧散していく。
つかの間の、自由。泣きたいくらいに、一人。
それをさびしいと思うのは、俺のわがまま。
あの人にそばにいてほしいなんて、虫のいい話だ。
ぼんやりと足を動かして、外し忘れたのかひとつだけ金のボールのついた樅の木の前。目を疑う。
う、そ。
なんでいるの、夢なの?
だってだって、日本にいるはずじゃないか。こっちになんて、めったにこないくせに。なんで今日。
俺の、目の、前に。
「まったく、なにしてるの。勝手に抜け出すなんて」
常に狙われてるという意識が足りてないようだね、とヒバリさんはため息をついた。
「その上そんな薄着で。風邪引いて寝込んでみな。赤ん坊に殺されるよ」
「なん、で?」
俺の肩に積もった雪を手で払いながら、馬鹿な子だねという。
「君のとこの屋敷に行ってみたら君がいないって大騒ぎだ。忠犬はホールを破壊するし山本武は物騒に笑ってるし赤ん坊はコルトを片手で回してて危なかった。しょうがないから探しに来たんだよ」
あちゃあ、と俺は手で額を覆う。無意識に修理費を計算してうんざりした。被害状況を見なくても大体のところは分かる。もう慣れた。
あああああ、と頭を抱える俺に、でもね、と平坦な声でヒバリさんは言う。
「僕はあの屋敷に君を今すぐ連れ帰る気はないんだ」
え?と顔を上げれば口の端をやわく歪めてヒバリさんは笑っていた。
「君、全然休みがないんだもの。まだ時間はあるかなあって思ったのに、この二年まったく言うチャンスがなかった」
向こうにいるうちにさっさと言ってしまえばよかったよ。こんなお預けくらうだなんて思ってなかった。
「え、あ?何の話ですか?」
「うん」
ごつごつとした手のひらが俺のほほに伸ばされて、耳元に唇が近づいた。
君が僕を想っているように、僕も君を想っているよ
満足げに微笑んだ顔を見て、俺は沸騰するかと想った。
あとがき
予想外に甘くなった!!あれ!?なんで!?
ちなみにこの後綱吉は雲雀さんにホテルにお持ち帰りされます。食べられます。その後綱吉はリボーンさんたちに怒られます。しょうがないよ綱吉。自分が悪いんだ綱吉。
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