リボーンが雲雀さんに「ママンに会ってけ」といったので、雲雀さんはリビングのソファでぼんやりとしている。その間俺は何をしていたかというと、食器を片づけた後雲雀さんに手招きされ、恐る恐る近づいていったらぽんぽん、と彼の隣を手で叩いて示される。
 これは、隣に、座れってこと?
 恐る恐る座れば、答えはあっていたらしい。わしゃわしゃ、と頭を手のひらでかき回された。
 驚いたのがその手が、思ったよりも大きくて、しっかりとしていたことだった。それから、優しかった。
 相変わらずリボーンはにやにやとしていたが、そのうち飽きたのか、「俺は昼寝する」と部屋に行ってしまった。
 つまり、イコール、俺は今現在雲雀さんと二人きりだ。
 ……あのですね。いくら行動が優しいって言ったって、相手はあの気まぐれな雲雀さんですよ?この、俺を撫でた手でいつぶん殴られてもおかしくない状況は、ひたすらに怖いんですが。
 母さん早く帰ってきて、と念じてみてはいるが……まあ、まだ帰ってこないよな。
「さわだ、つなよし?」
「は、はい!」
「きみ、ねえ、なんて呼んでほしい?」
 切れ長の目を子供のように瞬かせて、そうすれば大人びた雲雀さんも年相応だ。ちゃんといっこ上に見える。
 そんなふうに、べつのところを気にしていたら、肝心の質問をうっかり聞きそびれた。
「え?」
「名前。君を、なんて呼べばいい?」
「え、え?」
「ツナ?それとも、綱吉?」



  つなよし



 ぞくりと背中に何か電気のようなものが走って、そうしたら雲雀さんが何かにやって笑って。俺ににじり寄ってくる彼はすごく楽しそう。
 両の手首をつかまれて、ソファに押し付けられる。手加減されているのか痛くはないけど、びくともしないのに彼の力の強さを思い知る。それから彼の顔が俺の耳元に近づいて、ふ、とわらった。
「……つなよし?」
「ひゃ……」
「綱吉、聞いてる?ねえ、綱吉」
「や、ちょ、ひばりさ……」
「つ、な、よ、し?」
「やだ、やめてください……!」
 もう俺は涙目、だってこの人の声、ざわざわしてなんかぎゅうっとなって、くらくらするんだもの。聞きたいけど、もうききたくない。変な感じがぐーってして、頭のてっぺんから足の指先までかっかとして、肩をちぢこめてしまう。
 耳元で静かに囁くみたいに言う、そのと息が耳にかかって、またざわざわして。あつい、あつい。
 ああもう、何でこの人こんな楽しそうなの。ずるい、んだけど。
 いたい、いたい、心臓よりもっと奥、もう自分でもどこだかわかんないところをこの人は俺の代わりに握っちゃったんだ、俺の名前を呼ぶだけで。
「ず、る……い」
「なにが?」
「ひばりさ、おれの、なんか、もってる」
「え?」
「なんか、へんなかんじする。ぎゅーって、これ、雲雀さんのせいだ。ひばりさんが、俺のこと呼ぶから」
 涙目、半泣き、きっと変な顔。きっとみっともない顔だからだ。雲雀さんは俺の顔をじいっとみた後、ぷ、って噴き出した。
「ひど……!!」
「あは、は、馬鹿だね、は」
 くつくつ、と声を出して笑う雲雀さんが憎らしくて、彼もおんなじ目にあえばいい、雲雀さんの耳元に唇を寄せた。

「きょう、や、さん」

 ふ、と雲雀さんの息を吸う音が聞こえなくって、彼の顔を見ようとしたら彼の肩口に顔を押し付けられた。
「……君、いい度胸」
「え、え?」
 雲雀さんの薄手のセーターからは割合に高い体温が伝わってきて、ついでにどくどくどく、と脈打つ、早い音が聞える。心臓と同じリズムを刻む脈拍に、俺は笑った。
「……そうです、きょーやさんも、おかしくなればいいですよ」
 だって俺だけじゃ不公平だよ。そういえばますます強く押しつけられて、体ごと彼の腕の中ぎゅう、と捉まった。
「生意気だ」
 いつの間にか怖さなんて吹っ飛んで、心地いいと知った彼の体温を覚えることだけしていた。
































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