雲雀恭弥は、目の前に広がる光景に対し違和感を覚え、こてん、と首をかしげた。





 二月も終わりに近づいてはいるが、いまだコートは手放せない。中学時代に知り合った、赤ん坊らしからぬ赤ん坊に話がある、と呼び出され、濃灰のセーターにジーンズを身につけ、黒のコートを羽織って外に出た。なんだって自分の連絡先を知っていたんだろう。教えた覚えはないんだが。さすがだ。
 行き先はかの赤ん坊が居候中、の後輩の家である。なんでも家庭教師として後輩を扱いているらしい。なんてうらやましい。あの赤ん坊と本気で殺りあったらさぞかし楽しいだろうに、などと物騒な思考をしていたら、いつの間にか目的地の三軒前だった。危ない。そのまま通り過ぎてしまわなくてよかった、と思いながらチャイムを鳴らす。
 反応は、ない。
 ふむ。ちょっと考えて、勝手に上がる事にした。自分は呼び出された身であるのだから開いてはいるのだろう。予想通り玄関はがちゃりと開いた。聞く人はいないと思いつつも、じゃまするよ、とつぶやいてずかずかと上がった。静まり返ったリビングダイニングは無人。
だと思ったら。
 視界を掠めたくすんだ水色、を目で追うと、ソファにくったりと身を沈め、すぴすぴときもち良さそうに眠りについている後輩、である沢田綱吉を見つけた。しかし、何かおかしい。自分の知っている沢田綱吉は男だったはずなのだのだが。
「……」


 それ、が着ていたのは、いわゆるワンピースだった。


 ぱちぱち、と瞬きをしてみる。目に映る光景はかわらなかった。別段目がおかしくなったわけではないらしい。ということは実際沢田綱吉が女物の服を着ているという事実に間違いはないのだろう。雲雀はこてっと今度は反対方向に首をかしげた。
 ふむ。存外似合わないということもない。むしろやたら細くて華奢な上女顔であるので良くにあう。これを知らない人間が見たら、少女だと断言するに違いない。ふわふわのワンピースにふわふわの髪。うん、可愛らしいかもしれない。
 取り敢えず状況把握のために容赦なく後輩を起こすという選択肢に変わりはなかった。
「いって―!!なにっ!?なにごとっ!?」
 がばり、と起き上がりあたりを見回す後輩の顔を覗き込む。とたん、ぴし、と音を立てたかのように固まった。
「ヒヒヒヒヒバリさん!?」
「ヒが多い」
 もういっぺん殴ったらいてえ!とまた叫んだ。うるさい子だ。
「あああ、先ほどもこうやって俺のこと起こしたんですね……」
「赤ん坊はどこ?」
「すいません俺寝てたんで……」
 言外にわからない、と言われ、ち、と舌打ちをした。まったく役に立たない。
「まあいい。待たせてもらうよ」
「は、はいっ!」
 ダイニングのテーブル横の椅子に座る。コートは背もたれにかけた。
「で、それはシュミ?」
「はい?」
 気付いていないようなので指差してやる。水色のワンピース。丈が短めなので白い太ももが露わになっている。後輩はぎゃ、と色気の皆無な声をあげた。
 ――――――ん、色気?
 雲雀は自分の思考回路に首をかしげた。むむむ?しかし面倒くさくなり深くは考えない。
「いえ、別にこれは趣味で着てるわけじゃないっていうか元々の性別からしたらこっちが普通っていうか!」
「……は?」
 意味がわからなくて首をかしげる。胡乱気な表情をしているはずだ、今の自分は。
「えーと、つまりですね、俺、女なんです」












「……人をからかって何が楽しいの、性別偽って中学は入れるわけないじゃない」
「ううう嘘じゃありません自分でも嘘っぽいと思いますけど!」
 話しますんでだから取り敢えずそのトンファー仕舞って下さい!と後輩は土下座した。それに免じて取り敢えず仕舞ってやる。あからさまに胸を撫で下ろされた。
 後輩曰く、ボンゴレの権力でもって情報改竄を成し遂げたらしい。まあ、ボンゴレの存在を三年程前まで知らなかった後輩自身もそれまでどうやっていたのか知らなかったそうだが(気にしてもいなかったらしい)。全くもって無駄なところで権力を使っている、と雲雀は思う。もっと違うところで権力は使うべきだ。
 それでもって十代目ボンゴレであるこれが女であることを知っているのはボンゴレの上層部と後ほんの一握りだけらしい。あの忠犬と野球好きも知らない、と聞いて驚いた。
「僕に教えちゃっていいの」
「このかっこ見られちゃったし変態だと思われるよりはましです」
 ああでもリボーンには怒られるかも、と顔を青ざめさせた後輩をしげしげと見る。先ほどの己の思考を思い出し、あながち外れてなかったんだな、とおもった。取り敢えず。
「正座、は止めたほうがいいとおもう」
「へ?」
「下着、見えてる」
 後輩はもう何回目かになる悲鳴をあげた。やっぱり、色気は皆無だった。



























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